はじめに
このたびは偉大なるディベートフォーラム上に原稿を執筆する機会をいただいて誠に光栄です。ここ2年ほど我が東北大学ESSディベートスクワッドは全国規模の大会において上位にくい込めるほどの勢いを持ってきているわけですが,今回はその背景にある要因について書いて欲しいということでしたので以下に述べていきたいと思います。結論から言えば東北大学に固有の練習方法,文献のリサーチ手段があるというわけではなく,みんなが楽しんでディベートをしているということがその主たる要因だと思います。練習方法,リサーチ手段については皆さんもご存知のことの羅列になってしまうかもしれませんが,いかにディベートを楽しく行うかということに力点を置いて述べていきます。
1. 私の知りうる東北大学ESSディベートスクワッドの変遷
1.1 偉大なるOB達
安藤さん:東北大学を語るといえばまずはこの方を抜きにしては語れません。本名,安藤温敏,92年東北大学理学部卒。私が知りうる中では最も年長のOBですが,意外なことにディベートセクションチーフではなかったそうです。理由はその方がディベートに打ちこむことが出来るからだそうです。さすがです。現役時代から想像力豊かな議論を次から次に生み出していたそうで今でも,部室にはその一部が残っています。92年のTIDL で回していたcounter plan はあまりにも有名です。あまり当時のことは語ってくれませんが,東北大学のちょっと変わった作戦の原点はここにあるのかもしれません。今でも時間の許す限り,大会会場に来て後輩の指導をしてくださるため、なかなか上級生が大会会場に行けない東北大学にとってはありがたいOBです。スクワッド一同感謝しています。
大森さん:体は小柄ですが,言うことのスケールは大きい方です。本名,大森敦史,97年東北大学工学部卒。僕は聞いたことがありませんが,現役時代はNDT のディベーターのプレゼンテーションを真似ることに凝っていたそうです。私が1年生で入ったときに4年生だったので話をする機会があったのですが,なかなか1年生には理解するのが難しい話をしていたのが印象的です。ただ,あまりにもディベートを魅力的に話してくださったので自然とディベートに心惹かれてしまったのをよく覚えています。現在は,東京から少し離れたところに勤めていらっしゃるせいでなかなか大会会場にくることは出来ないようですが,たまに大会にくるとスピーチの改善点を教えていってくださいます。東北大学のスピーチへのこだわりはここら辺にあるのかもしれません。
細井さん:私自身がもっともお世話になったといえばこの方ですね。私が1年生のときに家にお邪魔した時は,topicality とcounter planについて夜中3時まで熱く語ってくださいました。本名,細井宏泰,99年東北大学法学部卒。現役時代はなかなか周りがプレパレーション (以下プレパ)を手伝ってくれないという状況の中で,一人で全てのプレパをしていたという逸話があるくらいのプレパ好き(?)の方です。結構辛そうにプレパしているのを見て私はディベートセクションはやめようかなと思ったりもしましたが,「それが楽しいんだよ。」というマゾ的な発言に惹かれてディベートセクションに入ってしまいました。また「無いエビ(エビデンス )は無い」、「こりずにプレパしろ」など様々な名言を残してくださったという意味でも,非常に大きな貢献をしてくださった方です。
1.2 好調期の面々
今井君:99年度4年生。とにかくプレパ好き,3年生の前期は司法取引,後期は相続税に関する議論作成を単身,短期間で作り上げるという根性の持ち主。本名,今井直樹,文学部4年生。もともとはディスカッションセクションのサブチーフでしたが,その才能を見こまれてディベートセクションに引き抜かれたという経歴の持ち主。2年生前期は私と組んだJNDT で全国予選までもう一歩というところまで行きました。後期は直弟子の赤津君と師弟コンビを組んでいました。当時から赤津君のディベートにかける情熱には目を見張るものがあり,今井君もたじたじでした。また今井君は自分のバードン のみならず広くプレパしてくれるので,私も彼の見つけたエビデンスでずいぶん勝たせていただきました。どうしてそんなにプレパしているのかと聞いたところ,「勝った方が楽しいから」とのこと。さすがです。また,私も同じ文学部であるため,専門などずいぶん同じ授業があったのですが,そんな時は授業そっちのけで楽しい作戦を練ったりしていました。
佐藤浩一君:99年度経済学部4年生。全ての意見に対して「それって違うんじゃねぇ。」という懐疑的な発言を飛ばして自分の意見を展開していく強気のディベーター。この学年の中では最もきれいで美しいディベートをします。2年前期はドラマにディベートにと多岐に渡って大活躍,3年前期には当時まだまだ未熟な赤津君を引き連れてTIDLでセミファイナルまで行き,後期には1年生の佐々木君を引き連れてAll Japan のセミファイナルまで行ったという実績を持つ実力派です。当たり前のことをうまく議論するのが得意なタイプです。またブレインストーミング (以下ブレスト)などをしているときには,非常にきれるアイディアを出してくれるなど,我がスクワッドには欠かすことの出来ない貴重な人材となっています。プライベートでは,バーのマスターをするほどのタフネスを持っており,プレパも期限通りにこなす几帳面な一面も持っています。
赤津君:98年度ディベートスクワッドチーフとして大活躍。本名,赤津義信,東北大学理学部3年。彼は今井君の直弟子として,1年生のときからtopicality/counter plan漬けの生活を送り,KDA ではtopicalityで1勝をもぎ取りました。2年生の前期には自分が出ない大会でも鬼のようにプレパにいそしむすばらしいディベーターでした。私が3年生の前期にJNDTで優勝したときに否定側で勝った議論のほとんどはこの赤津君によって作られたものでした。赤津君は独特の英語とスマイルによって誰とでも仲良くなるという特技を持っています。そもそも彼は幼少時代,英会話学校に通っていたにもかかわらず,つまらないという理由からすぐやめてしまったそうです。そのあたりが独特の英語の出発点かもしれません。また,彼のフローシートに書いてある文字は通称赤津文字と呼ばれる筆記体のmとnのみで構成されるもので,本人すら試合後は解読することが出来ません。さらに自分が納得しない議論のブリーフ は,たとえパートナーが伸ばしたいと思っていても一瞥した後,「オレ,こんなの読まねーよ」といって投げ捨てるという横柄さも兼ね備えています。ただ疑問点などに関して,こちらが答えられないぐらいの勢いで先輩達に質問するというスタイルを確立したのは,ひとえにこの赤津君のおかげと言えるでしょう。敢えて東北大学の躍進の要因を挙げるとしたら,このような疑問点を放ったらかしにせずに,分析を深めていくという赤津的傾向です。
石井君:赤津君と組んで徐々に力をつけていた彼は気付いたら赤津君よりも目立つディベーターになっていました。本名,石井大輔,東北大学工学部3年。1年後期には異常なほど速いスピーチをしていましたが,それではジャッジに伝わらないということを反省し,スピーチ練習(以下スピ練)に力を入れるようになりました。赤津君とは対照的に聞きやすいスピーチと圧倒的な量のスピ練で,3年前期では全ての全国大会でスピーカーズランキング上位に入っていました。ただアルバイトの吉野家で鍛えた声の大きさでジャッジの鼓膜に負担をかけていることもしばしばです。大会会場では赤津君と石井君は非常に仲が悪そうという評判を聞きますが,部室でプレパしているときの方がはるかに険悪な雰囲気です。しかし,お互いが納得するまでとことん議論をぶつけると言うことが結果的に彼らの技術を上げているのでしょう。
このような人々の努力と協力のおかげで我が東北大学は大会で上位入賞できるほどの力を付けることができるようになりました。どの人物をとっても個性豊かでディベートに対する強い愛着を持っています。私が入学した当初のディベートスクワッドは予選も勝ち残ることが出来ないような実力しか持っていなかったので私自身もそれが当然と思ってディベートを行っていました。しかし,そんな中でも常に「楽しんでディベートをする。」ということを念頭において活動していたことが今の栄光につながっているのだと思います。
また東北大学ESSの部室はいつの頃からか24時間オープンになっており,いつでもプレパに来て,帰られるという状況にあることも最近の躍進に貢献していそうです。夜の部室でディベートセクションのみが入るときには一種,異様な雰囲気が漂っていて,他のセクション(以下他セク:ディスカッション,ドラマ,スピーチなど)の人はなかなか入りづらくなっているようです。これは反省点です。
もう一点,東北大学の特徴として,名ディベーターと呼ばれた人の試合のテープをよく聞いているということが挙げられます。自分が出るとき以外は大会を見に行けないため,それを埋め合わせるために良いスピーチを何回もテープで聞くようにしています。表現の仕方,議論の構成,比較の方法などを何回も聞きながら学びとっていきます。部室でディベーターが手持ち無沙汰のときには,おもむろに立ち上がって試合のテープを流し始めます。スピーチを聞きながら評論しあっていますが,こんなときも他セクの人は入りづらくなっているようで,これも反省点です。しかし,うまい人のスピーチを模倣するということは自分なりのスピーチを生み出すためには大変良いことだとみんな思っているのでこれからも続けていきたいと思います。
2. シーズンの流れ
2.1 モデル作り
東北地区では新しいプロポジション (以下プロポ)が発表されると、モデル
(を作り、セミナーにおいてそれを配布しています。モデルを作るにあたっては,議論を構築するためにその分野の基本書や雑誌を読んだりするので,新しいプロポについての理解を深めるのに大いに役立っています。モデル作りの手順は大体以下のとおりです。
2.1.1 候補が発表されてから新プロポが決定するまで
余裕のある人は候補の全てについて知識を入手し始めたり,勝手に山をかけて本を買って来たりしますが,大概の人はテスト期間であるため,そちらの方に力を注いでいます。ただ部室でディベーターが集まると「どのタイトルが面白そうか?」,「このタイトルならこう言う議論が出来るのではないか?」といったことを語り合っています。
2.1.2 新プロポ発表から数日間
新プロポの各単語の定義を英英辞書からコピーしてくる一方で,新プロポに関係する本を1,2冊読んで予備知識を付けます。英英辞書はOxford, Longman, Collins, Webster, American Heritageなどのメジャーなものを一通りそろえて,必要に応じて専門的な辞書や百科事典にも目を通すことになっています。Definition集が出来あがるとみんなそれを読みながら心の中でtopicalityのネタを考えています。
2.1.3 本を読み終えたら
ブレストを行います。とりあえずみんなの得た知識をどんどん挙げていって,その中からモデルで使えそうなCASE とDA になりそうなものを絞っていきます。またブレストの過程ではクラスタリングと呼ばれる方法も使っています。これは,紙や黒板の中央にトピックを書いてそこから矢印をひっぱていろいろな状況を書いていくというものです。単にプロポの知識を挙げていくよりも,それら相互の関係が分かりやすいので,後々役に立っていきます。さらにブレストで出る意見は突飛なものほど以外と使えたりするので,どんな意見でも大切にすることにしています。
2.1.4 ブレストを終えたら
ブレストで決まったモデルのCASEとDAの細かい構成まで決めてエビデンスを探し始めます。各議論ごとに責任者を決めて,それぞれどこまでエビデンスが見つかっているのかを確認し合います。エビデンスは学校の図書館,公共の図書館などから借りてきた書籍や雑誌から探します。特に雑誌記事や新聞記事を探すときには図書館にあるCD-ROMのデータベースなどを使うことによって必要な資料を早く見つけることにしています。東北地区ではディベートをしている大学が少ないために図書館の本や雑誌に着いて競合しないという利点があります。図書館にはあまりに新しい本はそろっていないことが多いので,新しい本に限っては買うことになります。エリミネーション (以下エリミ)や大会に向けて良質のエビデンスを隠す不貞な輩もいるようですが,大方正直にエビデンスを提出しています。モデルの概要が出来てきたら,それぞれの議論のバランスを考えて微調整を加えていきます。モデルが完成すると,東北地区では表紙に力を入れているので貴重なプレパ時間を割いてみんなで表紙について考えます。
というのが東北地区でのモデル作りの一連の流れになっています。東北大学と山形大学を中心に作成していますが、時には安藤さんに助言を求めたりします。安藤さんのほうが僕ら全体よりも良質のエビデンスを持っていて驚かされることもしばしばです。モデル作りでは構成や,クレーム付け などは上級生が中心になって進めますが,エビデンス探しは2年生や時にはやる気,興味のある1年生にも手伝ってもらっています。その過程で,エビデンスの探し方やそのこつなどを教えることが出来るので,一石二鳥です。
2.2 セミナー
モデルを作り終えると東北セミナーが開催されます。このセミナーは我々東北地区のディベーターが関東の一流ディベーターに直接指導してもらえる数少ない機会のうちのひとつなので参加者も気合を入れて臨んでいます。いつも同じ先輩から説明を聞いているとどうしても考え方が狭くなって柔軟性が無くなってしまいがちです。そういった意味でも関東のレクチャラーに違った観点からの意見を聞くことは大いに役に立ちます。
また,東北セミナーでは普段自分がやっていない方のバードンでの参加を推奨しています。理由は上と同じで,普段自分がやらないバードンをしてみることで,そのバードンの役割,どうしたらプレッシャーになるかなどを掴むことが出来るからです。普段,否定側第2反駁(2NR)をしている人は肯定側第2反駁(2AR)をしてみると2ARがどのように逃げ道を作ってラウンドを勝ちに行くかということが分かって,自分が2NRでどのように相手の逃げ道をふさいで勝つべきか具体的に分かりますし,普段,否定側第1反駁(1NR)をしている人が,肯定側第1反駁(1AR)をしてみると,どれだけ強い1NRが1ARのプレッシャーになるのかが分かって,いかに1NRでラウンドを勝ちに持っていくかということが具体的に掴めるはずです。
春と夏で日程が多少異なりますが,モデルディベートとレクチャーに1日,プレパに1日,ラウンドに1日で2泊3日ないし3泊4日で春は3月下旬,夏は8月お盆過ぎに行っています。最終日の夜には参加者全員でわいわい楽しく飲み会をしています(私は,いつも記憶を失うか,つぶれて寝ているので最後までは分かりませんが)。本当にわいわいやっています。モデルディベートを披露するディベーターがモデルディベートの前日に全員酔いつぶれてしまったこともありました。コーラ1.5リットル一気飲みという荒技を見せてくださった方もいましたが,それほど無茶な飲みではありません。関東及び各地方からの参加者,レクチャラーには手厚い接待がありますので,これを見て参加したいと思った方は,どんどん参加してください。
2.3 エリミネーション
セミナーも終わると,そのシーズンのどの大会に誰が出るかを決めるためにエリミを行います。東北大学はそれほどセクショナーが多いわけでもありませんし,1回大会に出るのに莫大な交通費がかかってしまうので,エリミをするまでも無く参加者が決まってしまうこともあるのですが,議論を深めたり,スピーチを分かりやすくするために行うことにしています。基本的には各地区のモデルを元に各チームともCASE,DAを作っていますが,中にはこの時期から新しいCASE,DAを作っていくる奇特な人もいます。東北大学のエリミでは勝敗よりもポイントの方が,重要視されるためにスピ練をしてくる人の方が新しい議論を出す人よりも報われることが多いようです。ただシーズンに入るとそういった新しいCASE,DAを出される可能性もあるので,そういった議論への対策にもなっています。
2.4 大会が始まると
大会が始まってくると,週末に大会で出た新しい議論の返しを平日の間に作ってスピ練をするという作業の繰り返しになっていきます。議論の返しは当然次の大会の参加者が中心となって進めていきますが,分担して効率的に行うようにというたてまえはあります。東北大学では,スピ練に非常に力を入れており,大会が近づいていくると,参加者はストップウォッチを片手にいつまでもぶつぶついっているという怪現象に出会うことが出来ます。またその種類も様々な試合展開を想定してそれぞれに対応できるようにしておきます。そうすることによって試合ごとに自分で考える柔軟性のあるスピーチをすることが出来るようになります。
スピ練はおもに自分が負けた試合のフローを見ながら改善点を見つけていくように行っています。それを先輩や同級生達に聞いてもらって分かるかどうかを判断してもらいます。分からないと言われた場合にはもう一度作りなおして聞いてもらうということを繰り返していきます。また新しく作った議論については,自分で相手の返しを予想して,その全てに対して返していくようにスピ練をしていくと実際の試合のときに時間配分がうまく行きます。試合展開によって時間が有るときと無いときがあるのでそれも考えて長く返せる場合と短く返す場合との両方について練習しておくのが理想です。が,なかなか時間が無くてここまでは出来ない人が多いようです。
大会本番では,1試合ごとにジャッジにリフレクション (以下リフレク)に行き,何がうまく伝わってないのかをしっかり聞いてミスコミュニケーションの原因を確認します。議論の弱点などを聞くことも大事ですが,その場で対策するこはなかなか難しいものです。それに対して表現で分かりにくいところや伝わりにくい単語などはすぐ次の試合に向けて直すことが出来ますし,ポイントも上がっていくはずです。
試合が全部終わったら,今度はバロット をしっかり読んで議論がどの程度の評価を受けているのかやジャッジに対してどれほどの説得力を持っているのかを確認します。また納得のいかないバロットに関してはそのジャッジにEメールなどで,意見を聞いている人もいるようです。また自分以外にも先輩や同級生にバロットを見てもらうことで,その議論の客観的な強さを判断することも行っています。このようにして1試合1試合ごと,1大会1大会ごとに既存の議論をいかに分かりやすくしていくかということに東北大学では力を入れています。
2.5 他大の情報
交通費などの問題から東北大学では,なかなか予選からパッチを大会に送ることが出来ないので,関東の大学,関西の大学と友好関係を深めて情報を集めていかなければなりません。そういう意味で,細井さんや赤津君などの歴代チーフは関東や各地方に太いパイプを持ち,互いに情報を交換していました。各大学との協力無しには勝つことができなかったはずですから,東北大学の最近の躍進にある背景にはこれら協力してくれた大学の力も大きいと思います。
2.6 交通費
東北大学にとって一番大きな問題は交通費をいかにして作り出すかということです。1回週末関東に行くだけで16000円以上かかってしまうため東北大学のディベーター達はアルバイトとプレパのバランスをうまく保たなければなりません。あるディベーターは家庭教師で生徒に問題を解かせている間に試合の作戦を組んだり,またあるディベーターは接客業をしているにもかかわらず仕事中にスピ練をするなど涙ぐましい努力をしています。このように一つの大会に莫大な金額がかかっているために「参加するからには勝つぞ!」という意気込みを各ディベーターが持っています。
3. 後輩の指導
後輩を指導するにあたって,念頭においていることは,「自分で考える癖をつけさせる」ということです。なんでも先輩が教えてしまうことは簡単ですが,実際の試合の中で相手の議論に合わせていく柔軟性が培われません。先輩に対して質問するときでも,いきなり「この議論の返しを教えてください。」と聞きに来るのではなくて,「この議論に対してこういう返しを考えたのですがどうですか?」と聞くように教育しています。普段のプレパからこのように考えさせることによって,試合に臨んだときにもうまく反論,比較を出来るようになると考えています。
また2,3年生達はディベートのことを1年生の前で話すときにはそれが魅力的に聞こえるようにしています。実際に東北大学では楽しんでディベートをしている人が多いので,そういった良い雰囲気を1年生にも感じさせることで1年生にもディベートの楽しみを徐々に分かっていってもらうことにしています。
3.1 ベーシックディベート
東北地区では,毎年5月末ごろに各大学の1年生を対象としたベーシックディベートという大会を開催しています。論題はここ数年「死刑廃止」で,エビデンスはCASEもDAも7,8枚という手軽な量でアカデミックディベートへのイニシエーションの役割を果たしています。この大会によって多くの1年生がディベートに興味を示し,中にはこの時点から,異常なほどのめり込んでいく人もいます。教育に際しては,あまり専門的になりすぎず,ディベートとはこういうものだというのを面白い例や愉快な逸話などをまじえながら説明するようにしているので,つらさを感じさせない内容となっています。ただ,実際にやってみるとやはり難しいようで大会前日には徹夜をして来る組がいくつかありますが,そんなときでも出来るだけ先輩がついてやって,フォローをいつでも出来るようにしています。
3.2 NAFAみちのくトーナメント
毎年10月前半に開催される東北地区唯一の全国からディベーターが集まるディベートトーナメントで1年生はヘルパーをしながら,関東の一流のディベーター達を間近で見ることになっています。フォーマルな格好に身を包んだ各大学の2,3年生がディベートをする姿は1年生の目には非常に格好良く映り,一気にディベートに惹かれる人も出てきます。私も1年生のときには,うまく聴き取れないながらも素晴らしいであろう試合の数々を見ながらいつか自分もこうなりたいと思ってディベートセクションに入ることを決意したものです。そういう意味で,NAFAみちのくトーナメントは1年生のディベートに対する興味,関心をディベートへの動機という具体的な形にするのに役立っています。
3.3 アテル(ATEL)ディベート
毎年11月後半に開催されるAll Japanのための予選も兼ねた東北地区のディベート大会です。東北大学では伝統的に先輩と1年生が組んで出るということになっており,1年生がじっくりとディベートについて学ぶことができる最初の機会となっています。上で述べたように一緒に組むといっても教育を目的としているためにただ作ったブリーフを渡して二人羽折のスピーチをするのではなく,自分で考えて返すようにさせている先輩が多いようです。
最後に
以上,東北大学の躍進の要因という要望に合致しているか自信がありませんが,私の思うところを述べさせていただきました。東北大学ディベートスクワッドの目標はずばり"Enjoy Debating"ということになっております。もちろん勝つことでEnjoyだという人もいるでしょうし,友達を増やせればEnjoyだという人もいますし,知識が深まればEnjoyだという人もいます。最近の東北大学躍進の背景は勝つことでディベートを楽しみたい人が増えているということなのかもしれません,しかし,我々がいつでも考えていることは,「ディベートを楽しむ」ということそのものがディベート活動の根底にあるということです。それを忘れて勝つ事のみを追及していたら躍進することが出来なかったかもしれません。たまたま楽しくディベートを続けてきた人こそが今日の躍進を支えてきたのでしょう。ディベートを愛し,ディベートを楽しんでいることが東北大学の躍進の一番の原因です。
(さとうけんえい)
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