1.はじめに
ここでは、ディベートの試合の準備、すなわちプレパレーションについて話したいと思います。試合までに何を準備すべきなのか、どうすれば効率よくプレパレーションができるのかということがテーマです。秋のシーズンに向けて、皆さんの参考になれば幸いです。
2.現在のプレパレーションの問題点
2.1 アーギュメントを揃えるだけで精一杯
まず、現在のプレパレーションの問題点から考えてみましょう。皆さんの中で、試合に出る前にプレパレーションをしない人はいないと思います。しかし、果たして十分なプレパレーションができているでしょうか。ディベートの試合をジャッジした経験からいいますと、大会で上位入賞をはたす大学は別として、多くの大学は、「アーギュメントを揃えるだけで精一杯で、十分に使いこなせていない」状況にあると思います。
すなわち、多くの大学は、肯定側のときにケース(プランとAD)を準備し、否定側のときにケースアタックとDAを準備するだけにとどまっていて、相手のアタックへの対応や、勝つための戦略(ストラテジー)の検討、スピーチ練習が十分にできていない、その結果、試合では、肯定側、否定側とも第一立論は無難にこなすのですが、その後の展開になるといろいろ問題が出てきます。列挙してみると、
- 相手のアタックに対し適切に反論できない、
- どのアーギュメントで勝ちに行くのか戦略(ストラテジー)が不明確であり、勝敗に結びつかない議論に時間を費やしてしまう
- スピーチ練習不足で、いいたいことが言えない。または時間配分をミスして、相手のアーギュメントを落として(drop)しまう。
どうでしょう。思い当たるところはありませんか?NAFA(全日本英語討論協会)の1999年度春セミナーで、参加者にアンケートを取ってみたところ、57%の人がスピーチ練習が足りないと考えているという結果となりました。たしかにスピーチ練習は、上で述べたような観点からは足りないプレパレーションのひとつです。現状では、プレパレーションの問題点は意識はしているけど、改善には至っていないようですね。
2.2 試合の教訓を生かせない
また、伸び悩んでいる大学に共通する問題点は、「試合から得た教訓を次の試合に生かせない」ことです。試合で負けると、その敗因を分析して対策を打ち、試合毎にうまくなっていく大学がある一方で、前の試合も次の試合も全く進歩がなく、いつも同じことが原因で負けてしまう大学もあります。
皆さんは、うまいディベーターを見て「自分達とは全然違う」と感じることがあるかもしれませんが、彼らもシーズンの最初の試合から素晴らしいディベートをしているわけではありません。ただ、うまいディベーターは、その後アーギュメントを改良し、ストラテジーを練り直し、スピーチに磨きをかけていくため、試合毎にレベルアップして、何試合か経験した後は、最初の頃より、一段とうまくなっていたりします。これに対して、伸び悩んでいる大学は、何試合やっても、レベルが上がらなかったりします。この点は、小さいように見えて、結構大きな差となります。
3.これからのプレパレーション
3.1 試合に勝つためには?
これからのプレパレーションを考えるにあたっては、まず「試合に勝つためには何が必要か、どこをどう変えるべきか」という視点を持つべきだと思います。スポーツの練習を効果的に行うためには、何のためにその練習を行うかという目的意識を明確にする必要があるといわれますが、ディベートでも同じです。「試合に勝つ」という目的を明確にして、そのために何が必要かを考えていくべきです。
ジャッジをしてみるとわかりますが、「このアーギュメントがなければ勝てない」という試合は意外と少ないものです。プロポジション(論題)が広い時代は、相手が準備していないケース、いわゆる「びっくりケース」を肯定側が出してくると否定側はお手上げという試合もありましたが、最近はプロポジションが狭いので、肯定側のケースや、否定側のDAが出された時点で、勝敗が決まるようなケースはまずありません。むしろ、第一立論でお互いのアーギュメントが出てきた後の、その後の議論の展開こそが鍵を握ります。私がジャッジした試合を振り返っても、リバタル(反駁)の議論の仕方や、ラスト・リバタル(最終反駁)のアーギュメントの比較の仕方ひとつで勝敗が分かれるケースは相当多かったですし、そういう試合を勝てるかどうかは、大会の成績にも大きくかかわってきます。
とすると、「アーギュメントづくりを効率化し、ストラテジーの検討、スピーチ練習などに時間をかける」のが、勝つために必要なプレパレーションということになります。肯定側のケースや、否定側のDAなどのアーギュメントを作るまでは、プレパレーションの半分であり、その後のストラテジー検討や、スピーチ練習こそがポイントになるのです。
また、ストラテジーの検討やスピーチ練習にあたっては、実際の試合からのフィードバックを心がけるべきです。特に、負けた試合こそ、ディベートのスキルを伸ばすいい機会です。負けた試合のことはすぐ忘れてしまいたいのが人情ですが、その試合の敗因を分析し、改善して次の試合に臨んでこそ、ディベートのスキルも上達するというものです。
3.2 アーギュメンテーションづくりの効率化
ストラテジーの検討、スピーチ練習に時間をかけたくても、試合に出すアーギュメントをつくり、ブリーフ(原稿)を揃えるだけで精一杯という人も多いことと思います。プレパレーションにかける時間を増やせばこの問題は解決しそうですが、実際は、ディベートの準備以外にも、大学の勉強や、アルバイトや、クラブの行事などもあって、プレパレーションにさける時間には限界があると思います。とすると、ストラテジーの検討、スピーチ練習にかける時間をつくるためには、その前段階のアーギュメントづくりを効率化することが必要になります。
アーギュメントづくりの効率化といっても、英語ディベートの場合は、エビデンスを英訳したり、ブリーフをつくったりするだけでも時間がかかります。アーギュメントづくりにかける時間を大幅に短縮することは難しいかもしれません。とすると「無駄をなくす」ことが効率化の一番の近道です。時間をかけて本を読んだがエビデンスは見つからなかったとか、ブリーフをつくったが試合では全く使わなかったということを、どれだけ減らせるかがポイントになると思います。
3.3 ここまでのまとめ
以上のことを踏まえて、これからのプレパレーションのポイントを次の通りまとめてみました。
- アーギュメントの改良、ストラテジーの検討、スピーチ練習に時間をかける。
- 試合からのフィードバックを重視する。
- そのために、前半のアーギュメントづくりを効率化する
これが、私の説明するプレパレーションの全体像となります。おわかり頂けましたでしょうか?それでは、それぞれの点について具体的に説明することにします。
4.アーギュメントづくり
4.1 基礎リサーチ
まずは、アーギュメントづくりについて説明します。アーギュメントを作成するためには、プロポジションに関する基礎知識が必要ですので、まずは、基礎的なリサーチを行います。これには次のような方法があります。
(1) トピック全体を扱った概説書を読む
プロポジションとなるトピックについては、概説書が出版されていることが多いです。このような本を入手して、一通り読んでみましょう。現状はどうなっているのか、肯定側、否定側のアーギュメントとしてどのようなものが考えられるかという点が読むときのポイントです。しかし、この段階では「広く浅く」知識を得ることを目的とし、プロポジションと関係がありそうな部分は、すべて読んでおいた方が良いでしょう。
ここで大事なのは「現状はどうなっているか」についてもリサーチを行うことです。今季の例で言えば、論題である「国民投票」や「首相公選制」について調べる人はいても、現在の制度である間接民主制がどのように機能しているか、首相公選制ではなく議院内閣制はどのような特徴があるかまで調べる人は少ないのではないでしょうか。しかし、肯定側にせよ、否定側にせよ、現状の正確な理解なくしていいアーギュメントは作れません。特に否定側は、現状の制度の利点が不利益(DA)のアーギュメントを作るヒントになることが多いので、現状の制度のリサーチは欠かせません。
(2) モデルのアーギュメントに目を通す
英語ディベートについては、各ディベート団体でモデル・アーギュメントが作成されます。最近は、NAFAのホームページ等でも公開されていますから、これを入手して目を通しましょう。
モデルのアーギュメントをみるときは、アーギュメントの構成のみ目を通すのではなく、エビデンスもしっかり読みましょう。エビデンスをじっくり読むことで、プロポジションに関する基礎知識が身につくとともに、どのアーギュメントが強いかということも理解できるようになります。
(3) 新聞の関連記事をチェックする
最近の時事問題に関するプロポジションについては、新聞の関連記事をチェックしておきましょう。本に載る情報は、どうしても2〜3ヵ月遅くなるので、最新情報を確認するには、新聞か雑誌を見る必要があります。この段階では、日頃読んでいる新聞に関連する記事があればチェックし、必要があればスクラップしておけば十分です。
このような基礎リサーチをせずに、いきなりアーギュメントづくりに入った方が効率的だと思う人もいるかもしれません。しかし、後々のことまで考えると、基礎リサーチをした方が効率的です。プロポジションについての十分な基礎知識があるとアーギュメントについてのアイディアが浮かびやすいし、どのようなアーギュメントについては根拠がありそうか(エビデンスが見つかりそうか)という「相場感」も身につきます。また、基礎リサーチをしておけば、試合中に知らないアーギュメントが出てきても、その内容を推測して対応することも可能です。
多くの人は、アーギュメントのリサーチを行いながら、プロポジションの基礎知識を得ているようですが、このような方法では、アーギュメントの方に興味が向ってしまい、それ以外の基礎知識を広く浅く集めることが困難になるおそれがあります。基礎リサーチにはそれほど時間のかかるものではありませんから、最初のうちは、基礎リサーチに絞って行った方がいいように思います。
4.2 アーギュメントの構想を練る
プロポジションについての基礎知識を得たら、AD/DAなどのアーギュメントの構想を練ります。これは、みんなで集まってアイディアを出し合う、いわゆるブレイン・ストーミングの方式で行うのが良いようです。
ブレイン・ストーミングは多くの大学で行っているようですが、単なる雑談で終わってしまい、効果的にできないケースもあるようです。雑談に終わらせないためには、いくつかの点に留意しなければなりません。
まず、参加者全員が基礎リサーチを済ませてくることが必要です。知識がない段階で集まってもアイディアの出しようがありません。次によく指摘されることですが、出されたアイディアを批判せず、自由な着想を生み出す雰囲気づくりが大切です。また、出されたアイディアは黒板などに記録しながら進めていき、最終的にはノートなどにまとめることが必要です。単に話をするだけでは何も残りません。
いろいろなアイディアが出されると、ではどれを選ぼうかという話になります。しかし、ブレイン・ストーミングの場では、最終決定はせずに候補を選ぶにとどめ、もう少しリサーチをすすめた後で最終的な選択をした方が、効率的なことが多いようです。
4.3 アーギュメントの作成
アーギュメントの構想が固まってきたら、アーギュメントの具体的な構成を決めつつ、書籍や雑誌などの文献を調べてアーギュメントの根拠となるエビデンスを探す作業、いわゆるリサーチを行います。実際はリサーチとアーギュメントづくりは同時進行で行うのですが、ここでは、アーギュメントのつくり方から説明しましょう。
(1) アーギュメントの構成の作成
私の場合は、アーギュメントの根拠となりそうな資料が集まってきた段階で、まずAD/DAの構成を考えるところからはじめました。まず、AD/DAのクレームと構成をフローシートに書き出します。そして、クレームの根拠となるエビデンスを資料から抜き出して当てはめてみます。ただし、フローシートには資料名と頁数のみ記入し、エビデンスを抜き出して英訳することは、この段階ではまだ行いません。
このときは、資料の集まりやすそうなアーギュメントをつくることを心がけます。資料の集まりにくいアーギュメントは根拠が不確かなことが多く、その後の改良も困難です。
場合によっては、この段階で必要な資料がなかなか集まらないことがあるかもしれません。リサーチを続ければ必要な資料が集められる見込みがあればよいのですが、そうでなければ、そのアーギュメントの作成を断念したり、構成を変更することも必要になります。
(2) 検討および改良
フローシートに構成を書き出したら、繰り返し目を通し、流れやロジックをチェックします。重複する部分や、説明が足らない部分、クレームとエビデンスが合わない部分があれば修正し、必要があれば根拠となるエビデンスも変更します。
チェックするときは、AD/DAのプロセスは明確で無理なくつながっているか、インパクトは具体的に示されているか、などを重点的にみることになります。自分では構成の欠点がわかりづらいので、他人にチェックしてもらうのもよいでしょう。
最初につくったアーギュメントは、資料に引きずられて構成に問題があることが多く、この段階で、2度、3度とアーギュメントの構成を改良することが普通です。この段階で当初の構想とは違ってくることも多いのでしょう。それが、関係する資料を読んでいろいろ検討した結果であれば、当初のアイディアを変更することをためらう理由はありません。
(3) 構成の決定およびブリーフの作成
アーギュメントの構成がフローシートのレベルで完成し、用いるエビデンスも決まったら、ブリーフの作成に取り掛かります。必要なエビデンスは英訳し、試合でそのまま読める形式のブリーフを作ります。
このような方法を行うのは、作成の効率性を考慮してのことです。アーギュメント作成の初期の段階では構成がひんぱんに変わることが多いため、最初からブリーフを作ってしまうと、後に構成を変更したとき、既に作ったブリーフが無駄になることが多いですが、このような方法なら、ロスは最小限ですみます。また、フローシートを使ってアーギュメントの構成をチェックした方が、骨格のロジックがチェックしやすいという利点もあります。
4.4効率的なリサーチ方法
リサーチを効率よく進めるためには、コツがあります。ある先輩は、次のように言っていました。「本を10冊読んでも1枚もエビデンスが取れないこともある。そうかと思うと、1冊の本から10枚のエビデンスが取れることもある。」これはまったくその通りです。したがって、リサーチにおいては、いかにして「エビデンスが取れる」資料を素早く見つけ、見つけた資料を徹底的に使いこなすかがポイントになります。順に述べると、次のようになります。
(1) 多くの資料を調べる
まずは、いろいろな資料にあたることが必要です。関連書籍はもちろんのこと、専門雑誌のバックナンバー、新聞記事、政府刊行物(白書など)、年鑑、百科事典まで広くあたって、エビデンスが取れそうな資料を探しましょう。最近は、書籍のインターネット検索や、新聞記事のデータベース検索などもありますから、これらの手段を使うことも効率化につながります。
また、英語ディベートでは、英語の文献ももっと活用しましょう。日本語から英訳する手間も省けます。英語の文献を読むのが負担な人は、まずは、時事報道に関するエビデンスを、日本の新聞から引用して英訳するかわりに、英字新聞から引用することからはじめたらどうでしょうか。
この段階では、だらだら本を読むことは避けましょう。目次・索引を利用して、その本が役立ちそうかどうかを素早く調べ、エビデンスが取れそうもないときは、あきらめて次の資料をあたるべきです。
ここで、使えそうな資料を効率的に探す奥の手を教えましょう。それは、各ディベート団体が作成した、モデル・アーギュメントのエビデンスの出典の資料を調べて、それを探してくることです。特に、モデル・アーギュメントの中で引用回数の多い資料は利用価値が高く、他にも有益なエビデンスが見つかる可能性が高いです。
(2) 使えそうな資料を入手する
エビデンスが取れそうな資料を見つけたら、その資料を買うか、借りるか、関係部分をコピーするかして入手しましょう。使える資料は手元に置き、繰り返し読んで徹底的に利用するのがポイントです。必要と思われる部分だけノートに書き写したら読むのを止めてしまう人が多いですが、これはとてももったいないです。私の経験から言っても、エビデンスが取れる資料は、後の段階になって、他の重要なエビデンスが取れることも多いです。
私の場合は、使えそうな資料は3度、4度と読み直し、ポイントとなる部分はほとんど暗記するくらい読んでいました。そのため、後で新しいエビデンスが必要になったときは、「その内容に関しては、この本の第3章のどこかの頁の左端にこういう記述があった」と指摘できる程でした。もっとも、それだけ細かく覚えているのは大会前だけで、大会が終わるときれいに忘れてしまいましたが。
なお、書籍をコピーするときは、関係する章・節を丸ごとコピーするとともに、本の奥付(最後の頁のこと、著者名、著者の肩書、書籍名、発行年月日等が書いてある。)もコピーを取り、一緒にホチキスでとめておきましょう。本文だけコピーすると、後で著者名、書籍名がわからなくなって、エビデンスとして使えなくなるおそれがあります。
(3) エビデンスを探す
まずアーギュメントを考え、その理由付けにあうエビデンスを探すのが原則です。「何か良いエビデンスはないかな」という観点で資料を読んでも、なかなか良いエビデンスは見つかりません。ただし、探していたエビデンスが見つからないときは、見つけたエビデンスにあわせてアーギュメントの構成を変更するといった柔軟性も必要となります。
ディベーターは、とかく自分のクレームと同じことがかいてある(ディベーター用語でいうと「言っている」)エビデンスを探そうとする傾向にあります。しかし、このようなエビデンスはなかなか見つかりませんし、見つけても、内容の乏しい、いわゆる「一行エビデンス」になりがちです。それよりも、クレームに対応する根拠を考え、その根拠となるエビデンスを探すべきです。
例えば、「間接民主主制は国民の意見を反映しない」というアーギュメントを作ろうとするとき、資料を読んで、このクレームに相当する語句がそのまま書いてある文章を探そうとするのは止めましょう。むしろ「かつて、日本で国民の意見を反映しない法律が制定された例はなかったか、消費税の導入や住専処理法案に対して大多数の国民が反対していることを示す資料はないか」という観点から資料を探してみたらどうでしょう。これであれば、年鑑や当時の新聞縮刷版をあたってみれば、見つかる可能性は高まります。
このアーギュメントを使うときは、「間接民主制は国民の意見を反映しません。このことは、大多数の国民が反対したにもかかわらず、○○法案が国会を通過したことにより示されています。」というように、推論を含んだ形のクレームを付けることで、エビデンスとクレームとをつなぐことができます。過去の事例に基づく理由付けがあるため、クレームを繰り返すだけの「一行エビデンス」と比べても、試合の中でも有効に使えることが多いでしょう。
クレームと一致するエビデンスを探すのではなく、根拠に相当するエビデンスを探し、エビデンスとクレームは推論でつなぐ。リサーチをするときは、このことを常に意識して下さい。
4.5 ここまでのまとめ
アーギュメントづくりを効率的に行うための留意点は、次の通りです。
- アーギュメントをつくる前に基礎リサーチを行い、プロポジションに関する基礎知識を固めておく。
- ブレイン・ストーミングは、基礎知識を得てから行う。
- アーギュメントは構成が固まってからブリーフをつくる。ブリーフをつくってから構成を変更すると、それまでの作業が無駄になる。
- リサーチでは、「エビデンスが取れる」資料を素早く見つけ、見つけた資料を徹底的に使いこなすかがポイントとなる。
- リサーチでは、クレームと一致するエビデンスを探すのではなく、根拠に相当するエビデンスを探し、エビデンスとクレームは推論でつなぐ。
アーギュメントづくりに時間をかけ過ぎるのは禁物です。アーギュメントをつくるのは、プレパレーションの半分に過ぎないことを思い出して下さい。完全なものをつくろうとあれこれ構想をめぐらすよりも、まず作ってみて、その後使いながら改良していく方が、結局は良いものになることが多いです。
5. モデルの利用法
アーギュメントづくりに、各団体の作成するモデル・アーギュメント(以下「モデル」)を利用するディベーターが多くなっていますので、モデルの利用法について説明したいと思います。
モデルとは、ディベート大会主催団体などがシーズン前に春キャンプ・夏キャンプなどを行うときに教材として配布するアーギュメントです。最近では、NAFAのホームページにおいて公開されているものもあります。主要なAD・DAがエビデンス付きで配布されるため、これをベースとして自己のアーギュメントをつくっているディベーターも多いと思います。
モデルを使うと、リサーチの手間が省け、アーギュメントづくりの効率化に役に立ちます。その反面、モデルは短期間に制作されるため、アーギュメントの質は玉石混合です。ADには完成度の高いものが多いですが、DAには完成度の低いものも目立ちます。また、シーズン終了時まで使えるような質の高いエビデンスもある一方、クレームを満足にサポートしていないような質の低いものもあります。
したがって、モデルはそのまま使わず、「いいとこ取り」をして使うのが上手な利用法です。次のような工夫をしてみましょう。
(1) アーギュメントの選択
複数のモデルを読み比べ、使えそうなADやDAのみを選択して、アーギュメントをつくります。AD1はA団体のモデルを使い、AD2はB団体のモデルを使うという形でも構いませんし、モデルのADとオリジナルのADを組み合わせてケースをつくってもよいでしょう。
(2) エビデンスの選択
モデルのエビデンスはよく読み、質の高いもののみ使いましょう。複数のモデルから質の高いエビデンスを集めて、自己のアーギュメントに組み込むのもよいでしょう。モデルのエビデンスは対戦相手にも知られているため、質の低いエビデンスを使うと、集中的にアタックされて苦しくなります。
(3) 補充的なリサーチは必ずすること
モデルのエビデンスだけを組みあわせて使うと、どうしても弱い部分が残ります。リサーチを行ってモデルの弱い部分を補強すると、アーギュメントは格段に良くなります。お勧めは、モデルのエビデンスの「種本」を入手して読んでみることです。いいエビデンスが残っている可能性は、結構高いですよ。
6.アーギュメント改良・ストラテジー検討
6.1 試合からのフィードバック
アーギュメントをつくって試合に出したとき、100%思い通りに行くことはまずありません。アーギュメントの内容がジャッジに伝わらない、相手からのアタックに適切に反論できなかった、見過ごしていた点が重要な争点になったなどということは、皆さんも経験したことがあると思います。
ディベートがうまくなるためには、試合から得た教訓を踏まえて、アーギュメントを改良し、スピーチに磨きをかけていくことが必要です。うまいディベーターほど試合毎にレベルアップしていくのに対して、伸び悩んでいる大学は、前の試合も次の試合も進歩がなく、いつも同じことが原因で負けてしまうことが多くあります。試合の教訓をどのように生かすかは、ディベート上達のための最大のポイントです。
また、どのアーギュメントで勝ちに行くのかという戦略(ストラテジー)を立てるためにも、試合からのフィードバックは不可欠です。ストラテジーを立てるためには、試合で勝つためには何が必要か、どこが重要な争点になるのかを認識することが必要です。それは、頭の中で考えていてもわかりません。実際に試合をしてみて、自己のアーギュメントと相手のアーギュメントの強み、弱みは何か、何が重要な争点になるのかを分析することからはじまります。
ここでは、試合からのフィードバックを生かしたアーギュメントの改良、ストラテジーの検討について説明します。スピーチの練習については、7.で説明します。
6.2 試合の実施・その分析
アーギュメントがひととおり揃ったら、まず試合をしてみましょう。ディベート大会出場までに十分なプレパレーションを行うには、大会の前に練習試合をする必要があります。また、大会に出場して試合を行い、その教訓を次の大会のプレパレーションに役立てるのもいいでしょう。練習試合をするときは、手を抜かずに真剣にすること、ジャッジを呼んで第三者のコメントをもらうことが必要です。
試合をした後は、その結果を分析し、次の試合に役立てるために十分な時間を取ることが必要です。数多く試合をしても、試合からのフィードバックを生かさなければ上達しません。ディベーターの中には、毎週末毎に大会に出場したり、練習試合をする人もいます。たくさん試合するのはいいことですが、前の試合の教訓を生かす時間がないまま次の試合を行うことは、ディベートの上達にはつながりません。
個人差もありますが、前の試合のフィードバックを次の試合に生かすためには、2週間程度が必要ではないかと思います。毎週末大会に出場しているディベーターは、出場大会を厳選し、充実したプレパレーションを心がけて下さい。
プレパレーションは、試合が終わった後の分析からはじまります。試合のフローシートを見直しながら、次のような観点で分析してみましょう。
- 自分達のアーギュメントはジャッジに十分に理解されたか。相手からのアタックにかかわらず成立していないと判断されたアーギュメントはあったか。あったとすればどの点か。
- 自分達のアーギュメントの中で、勝利の要因(Voting issue)となりうる「強い」アーギュメントは何か。勝利には結び付かない「弱い」アーギュメントは何か。
- 相手のアーギュメントの中で、「強い」ものと「弱い」ものは、それぞれ何か。
- 試合の中で勝敗に結び付くような「重要な争点」は何か。それらの争点で自分達が展開した議論は適切であったか。
これらの点をもっともよくわかるのは、その試合のジャッジです。試合が終わったら、必ずジャッジにコメントを求めましょう。そのとき、単に「コメントを下さい」というのではなく、大会であればバロットをよく読んだ上で、自ら問題意識を持って、上記の点を質問すると効果的です。
ディベーターによっては、勝った試合はジャッジのコメントを求めない人がいます。しかし、よく考えて下さい。コメントを求めるのは、負け試合の判定についてジャッジに抗議するためではありません。その試合から教訓を引き出し、次の試合に生かすためです。そうであれば、試合の勝ち負けに関わらず、コメントを求めるべきです。
6.3 ストラテジーの検討
試合の分析をしてみると、いろいろな課題が出てくると思います。アーギュメントの構成がジャッジに理解されなかった、エビデンスの質が悪い、DAのアタックが揃っていない、新しいADもつくらなければ…等々。するべきことは無数にあり、限られた時間内にすべてを仕上げることは不可能です。大事なのは「試合に勝つためのプレパレーション」という観点から、必要なものは何かをしっかり考えることです。
まず、試合に勝つための戦略(ストラテジー)の検討をしましょう。今回の試合のアーギュメントをもとに、自分達が勝つためのシナリオをつくってみます。ただし「自分のアーギュメントをすべて成立させ、相手のアーギュメントをすべてゼロにする。」というシナリオをつくるのは間違いです。自分のアーギュメントもアタックされ、相手のアーギュメントにも成立するものがあることを念頭におき、できる限り実現の可能性が高いシナリオをつくる必要があります。
例えば「日本政府はすべての原子力発電所を廃止すべきである」という論題において、否定側のストラテジーを検討することにします。肯定側は、AD1「従業員の放射線被爆の防止」、AD2「原子力発電所の放射能漏れ事故の防止」を出していました。否定側は、DAとして「電力供給の低下による経済の停滞」を出していました。AD1には強力なアタックがあるものの、AD2には強力なアタックがないという状況だったとします。
この場合、例えば「AD1をケースアタックでゼロにし、DAを成立させてAD2と比較し、DAの方がAD2よりも重大であると説得する。」というストラテジーを立ててみます。このストラテジーを具体的に分解すると、次のようになります。
- DAを成立させる。相手のアタックで減少しても、ゼロにはされないようにする。
- AD1をアタックしてゼロにする。
- AD2をアタックして減少させる。
- DAとAD2を比較し、DAの方が重大であることを説明する。
上記の例で、仮にAD2の強力なアタックを持っているが、AD1には強力なアタックがない場合には、AD2をゼロにして、DAとAD1を比較して勝つというストラテジーが現実的でしょう。また、AD1、AD2への強力なアタックがない場合には、DAをもう一つ出して、DA全体でAD全体を上回るようにする必要があります。すなわち、どのようなストラテジーを取るべきかは、自分の持っているアーギュメント、相手の持っているアーギュメント、それぞれの強さ・弱さを総合的に判断して考える必要があります。
試合の分析をもとにストラテジーを考えてみることで、勝つためには何が必要で、何を準備すべきかが明確になり、無駄のない効率的なプレパレーションができます。
6.4 アーギュメントの改良
ここでは、6.3で検討したストラテジーをもとに、アーギュメントを準備、改良することについて説明します。
(1) 軸となるアーギュメントの証明
ストラテジーにそって勝つためには、まずその軸となるアーギュメントを成立させることが必要です。6.3の否定側のストラテジーの例では、DAが軸となるアーギュメントです。軸となるアーギュメントが試合で証明され、ジャッジに理解されなければ勝つことができません。
軸となるアーギュメントについては、はじめてのジャッジでも100%理解できるような、わかりやすく、説得的なものとする必要があります。試合においてアーギュメントが成立しなかったり、ジャッジに理解されなかった場合には、証明が不足してるか、ロジックに欠陥があるはずです。コメントされた点について、エビデンスを追加したり、不十分な説明を補ったりして、アーギュメントを修正します。つくり直したアーギュメントは先輩にみせ、第三者の視点から再度チェックを受けるとよいでしょう。
(2) 相手のアタックからの防御の準備
試合の中では、軸となるアーギュメントは、相手からアタックを受けることになります。相手のアタックに対する再反論を準備し、軸となるアーギュメントがつぶされないように防御する必要があります。
相手のアタックに対する再反論を用意するときは、致命的(crucial)なアタックと、そうでないアタックの違いを意識して下さい。前者は成立するとアーギュメントがゼロになるようなアタックであり、後者は、成立すると、リンクやインパクトは減少するものの、アーギュメントはゼロにならないアタックです。
プレパレーションでは、致命的なアタックからの防御が最優先です。単に反論するだけではなく、相手のアタックを完全に否定できるような再反論を準備し、必要なエビデンスを揃えましょう。
他方、致命的でないアタックについては、防御の優先度は下がります。エビデンスを揃えて反論できるのが理想ですが、準備が間に合わないときは「このアタックは自分達のアーギュメントを完全には否定しない」ことを口頭で指摘できれば、AD/DAがゼロになることはないでしょう。
防御の主張をリサーチするときは、新しい文献を調査する前に、アーギュメントづくりに使った文献をもう一度読み直してみましょう。同じ文献を視点を変えて二度、三度と読むことにより、新たなエビデンスが取れることを覚えておいて下さい。
(3) 相手のアーギュメントのアタックの準備
次に、相手のアーギュメントのアタックを準備します。ここで、ストラテジーをもう一度確認しましょう。相手のアーギュメントをゼロにする必要がある場合には、ある程度時間をかけて、リンクやインパクトなどを完全に否定することができる強力なアタックを揃える必要があります。他方、相手のアーギュメントを減少させればよいときは、相手のアーギュメントの証明の不備の指摘や、エビデンスを用いたアタックを組み合わせ、短時間で効率的にアタックを揃えましょう。
ここで、相手のアーギュメントのアタックの準備のポイントについて説明しましょう。第1に、反論のアイディアを得るためには、論題についての知識が必要です。基礎リサーチがここで生きてきます。第2に、漠然と反論の議論を集めるのではなく、相手のアーギュメントのどの要件(ユニークネス、リンク、インパクトなど)に反論するのかを意識し、具体的な反論のアイディアを念頭においてリサーチします。第3に、リンクやソルベンシーなどの一点に集中してアタックするのではなく、リンク、ソルベンシー、インパクトなどをまんべんなくアタックするようにします。これにより、相手方へのプレッシャーも高まり、ジャッジの印象も良くなります。
(4) アーギュメントの比較基準の準備
自分のアーギュメントが残り、相手のアーギュメントが残ったとき、両方のアーギュメントを比較して勝敗を決めることになります。したがって、リバタルにおいて比較の仕方を考えるのではなく、プレパレーションの段階からあらかじめ比較の視点を定めておき、自分のアーギュメントの重大性を訴える主張をアーギュメントに組み込んでおきます。これにより、リバタルの比較で相手より優位に立つことができます。
(5) その他のアーギュメント・アタックの準備
実際の試合では、ストラテジーにそったアーギュメント・アタックだけではなく、その他のアーギュメントを出すこともあります。肯定側が、軸となるAD以外のADを提出することもあるし、否定側がDAを軸とするストラテジーを組み、それとは別にトピカリティを提出することもあります。
別のアーギュメントを出すと勝利の要因(Voting issue)を複数つくることができ、ストラテジーにそったディベートがうまくいかないときでも、別のアーギュメントで勝つチャンスをつくることができます。その意味では、別のアーギュメントを出すことにもメリットがあります。
しかし、注意してほしいのは、ストラテジーにそったアーギュメントがあくまで主であり、他のアーギュメントは従にすぎないということです。他のアーギュメントを出したため、主となるアーギュメントの証明が不十分になっては本末転倒です。
ジャッジをすると、たくさんのADを出しすぎてそれぞれの解決性(Solvency)の証明が不十分な肯定側や、弱いDAやトピカリティの議論に時間を費やし、勝利の要因となりうるDAやケースアタックの証明が不十分な否定側を見かけることがよくあります。このような場合には、アーギュメントの数を絞り、ストラテジーにそったアーギュメントの証明を充実させることが勝利につながるということをよく認識して下さい。
6.5 重要な争点における優位性の確保
プレパレーションの最終段階は、重要な争点において、自己の優位性を確保することです。
試合中にはさまざまな争点があります。しかし、勝敗に直結するような重要な争点は、せいぜい3または4、多くても5つ程度にすぎません。これらの重要な争点において、いかに相手より優れたアーギュメントを展開できるかが勝敗の鍵となります。何が重要な争点かはストラテジーによって異なりますが、相手の軸となるアーギュメントへの強力なアタックや、自己の軸となるアーギュメントへの致命的なアタックが、重要な争点となるケースが多いです。
重要な争点については相手も主張を準備してきますから、単に自分の主張を提出するだけでは、相手より優位に立つことができません。相手の主張と自分の主張を比較し、自分の主張の優位性を訴えることが必要です。例えば、次のような観点から自己の主張の優位性を準備できれば、勝利に大きく近づくことができます。
- 相手の一般的な主張に対し、自己の主張は事案に特定している(Specific)こと
- 相手の理論的な主張に対し、自己の主張は事実に基づく(Empirical)こと
- 相手方の主張は時期が古いが、自己の主張は最新の状況を踏まえている(New)こと。ただし、これは経済、政治など、時期によって状況が変りうる場合に限ります。
- 相手の主張は、権威者の発言に基づくものではないが、自己の主張は権威者の発言に基づくものである(Authorized)こと
ここでのポイントは、すべての争点について偏りなく準備するのではなく、重要な争点にポイントを絞って自己の優位性を確保するために徹底的に考え抜く方が、試合で勝利する可能性が高いということです。ディベートのプレパレーションの時間は限られていますし、相手をすべての争点で上回るだけの準備を整えるのは、容易ではありません。しかし、限られた争点についてのみ、相手より優れた主張を準備することは十分に可能です。そして、それが勝利の鍵なのです。
私自身の経験から言えば、重要な争点において自己の優位性が確保するためのアイディアを思い付き、エビデンスを揃えた時点で、「これで試合に勝てる」という自信がわき、実際の試合でも、自信をもってスピーチをすることができたように思います。
7.スピーチ練習
7.1 スピーチ練習の意味
プレパレーションでは、アーギュメントづくりや、エビデンスのリサーチにばかり目が向きがちです。しかし、実際の試合では、スピーチの良し悪しで勝敗がわかれるケースが目につきます。負けた試合を振り返っても、「このエビデンスがなければ勝てた」という試合は思いのほか少なく、「このようにスピーチしていれば勝てた」という試合が多いのではないでしょうか。
ディベートでは、複雑なことを短い時間で説得的に伝えなければなりませんが、これは練習なくしてできるものではありません。考えた通りのことをジャッジに伝えるためには、スピーチ練習が不可欠であることをよく認識して下さい。
他方、スピーチ練習は、行えば行うほど上達します。したがって、スピーチ練習には十分な時間をかける価値があります。プレパレーションの3分の1はスピーチの練習にあてるつもりで取り組んで下さい。
スピーチ練習は、目的意識を持って行うこと、繰り返し行うこと、時間を計って行うこと、の3点が鍵となります。以下、順に説明しましょう。
7.2 立論のスピーチ練習
(1) ブリーフの読み込み
立論では多くのブリーフ(原稿)が読まれますが、読み方が悪いと、ジャッジの印象を悪くし、スピーチポイントが低下するのみならず、自分のアーギュメントが、ジャッジに十分に理解されないおそれがあります。
ディベートで使うブリーフは、必ず事前に一度声に出して読んでおくようにしてください。わからない単語は、発音の仕方を確認しておくことは当然です。読むときは、イントネーションに注意し、早く読むことより、なめらかに読むことを心がけましょう。
また、声に出して読むときは、ストップウォッチなどで時間を計測し、ブリーフの隅に小さく書き込んでおくと、試合で役に立ちます。
(2) パート別練習
1NCにおけるADアタック、2ACにおけるADアタックへの反論、2NCにおけるDAアタックへの再反論とDAの伸ばし(Extension)などは、いきなり試合でやってもうまくいきません。まずはパート別練習を繰り返して、具体的な表現や、時間配分を習得します。
具体的には、予想される相手のアーギュメントやアタックをフローシートに書き込み、これに対する反論のスピーチを練習します。このときは、必ず時間を計測し、目標の時間内に収めるように意識してスピーチを行うことです。これは、相手のスプレッド(多くのアーギュメントを出して、反論を薄くする戦術)対策にも有効ですし、練習を重ねることにより、時間配分をミスして、相手のアタックをドロップしてしまうことも防止できます。
練習では「より説得的に、より簡潔に」を目指しましょう。効果的なキーワードを選び、短い文章でダイレクトに訴えるスピーチが理想です。先輩やパートナーにチェックしてもらい、アドバイスを受け、それを取り入れてさらに練習を行いましょう。
ひとりが肯定側、ひとりが否定側を担当し、1NC-2NC-1NR-1ARの対戦形式で、ADアタック、その反論のパート別練習を行うのも効果的です。この方法はより実戦的であり、リバタルの練習まで含めることができます。同様に、1NC-2AC-2NC-1AR-2NRの対戦形式で、DAアタック、その反論の練習をすることもできます。
スピーチ練習は繰り返しが鍵です。アドバイスを受けて何度も繰り返すことにより、スピーチが少しづつ洗練され、上達してきます。ひとつひとつの練習に明確な目的意識を持ち、改善する点を意識しながら練習しましょう。
(3) アーギュメントの構成の変更
スピーチ練習をしていると、アーギュメントの構成を変えたり、2ACで読んでいたエビデンスを1ACに組み込んだりする方が、短時間で説得的なスピーチができることに気付くことがあります。このような場合には、アーギュメントの構成を変更し、より説明しやすい構成に変更しましょう。実際の試合でも、スピーチのしやすいアーギュメントとすることができます。
7.3 リバタルのスピーチ練習
リバタルのスピーチ練習は、「試合のリバタルのスピーチのやり直し」が最も効果的です。実際の試合のフローシートをもとに、リバタルのスピーチをやり直してみて「説得的で勝てるスピーチ」を時間内にできるように練習します。このときは、試合におけるジャッジのコメントや、試合の分析の結果を練習に取り入れ、試合からのフィードバックを図りましょう。この練習も先輩やパートナーにチェックしてもらい、アドバイスを受けてさらにスピーチを改善すると効果的です。
同じ試合は二度とないのだから、過去の試合のスピーチをやり直しても次の試合で役に立たないのではないか、そのような疑問を持つ人もいるかもしれません。しかし、リバタルのスピーチは、試合が異なっても共通する部分が多いのです。自己のアーギュメントの説明や、相手のアーギュメントへのアタック、アーギュメントの比較などは、どの試合でも同じようなスピーチをしているものです。これらのスピーチが説得的になれば、接戦で勝利する可能性がそれだけ高くなります。
8.おわりに
これまでリサーチ、アーギュメント作成、ストラテジー、スピーチ練習などを説明してきました。プレパレーションについては、具体的なテクニック・ノウハウよりも、「試合に勝つ」という目的を明確にして行うことが、最も重要です。
良いプレパレーションの一例として、前号(VolumeXIV No.2 通巻45号)に掲載された、佐藤賢栄氏の「東北大学物語」が参考になります。ここでは、東北大学のプレパレーションの一端が紹介されていますが、試合からのフィードバック、スピーチ練習などについて、示唆に富む点が多いと思いますので、一読をお勧めします。
いいプレパレーションができると、ディベートも上達するし、なにより試合が充実します。本稿が皆さんが充実したディベート活動の一助となることを希望します。
(いいだ ひろたか)
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