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新人勧誘の事例研究
〜NAFAによるスクワッドメイキング集の分析〜


飯田浩隆(1993年神戸大学卒 JDA理事 NAFA顧問理事)

初出: Debate Forum vol. XV No2 (2001)
web掲載:2002.4.10


[目次]
1 はじめに
2 各サークルの事例研究
 (1) ディベートの概要説明
 (2) 体験試合
 (3) 実際の試合を見せる
 (4) 良好な人間関係

3 まとめ


1 はじめに
 サークルでディベート活動を行うためには、新人勧誘は特に重要です。NDTスタイルのディベートは、初心者にはわかりにくく、敷居が高く感じられます。「ディベートをはじめてみよう」と新入生に思わせるためには、ディベートの魅力を分かりやすく伝えるための新人勧誘が重要です。

 新人勧誘は時間と手間がかかるため、ディベート大会の準備で忙しいときなどは、どうしても十分な時間を確保しずらくなります。しかし、サークル活動の観点からは、新人勧誘は、大会で上位入賞することに勝るとも劣らぬほど重要です。ディベート大会で長年にわたって活躍しているサークルでは、必ずといってよいほど、新人勧誘に力を入れています。

 これまで、新人勧誘については、各サークルで試行錯誤して行われてきました。今回、NAFAでは、NDTスタイルのディベートを実施している大学ESSを主な対象としてアンケートを行い「スクワッドメイキング集」を作成しました。ここでは、このアンケートを元に、効果的な新人勧誘の方法を実例に基づいて分析したいと思います。

2 各サークルの事例研究
(1) ディベートの概要説明
 新人を勧誘するには、まずディベートとは何かを理解させなければなりません。新人に対してディベートの概要を説明する機会を設ける場合は、単にディベートの概要を説明するだけではなく、ディベートの面白さをアピールすることが重要になります。

 東京大学ESSでは、ディベートの概要説明に加え、ディベートで得られるスキル、ディベートの楽しさをあわせて説明しています。また、わかりやすく、楽しい雰囲気のモデル・ディベートを用意し、新人がディベートについて好意的なイメージを持つように工夫しています。

東京大学ESS
 UTでのセクション勧誘は4月・5月でのセクション説明会から始まります。この説明会では、ディベートについて一般的な解説と身につくものや醍醐味について語ります。具体的には、ディベートは読む・書く・聞く・話すの4つすべてをやるので英語が身に着きやすいこと、論理的な考えが身につくこと、全国に友達ができること、勝ち負けがあるので燃えることといったことについて話しました。
 (また)解説つきモデルディベートを何回か見てもらう機会を設けます。プロポはそのときのものを使いますが、スピードなどはわかるまで落としてゆっくりやります。ひかれてはまずいので、ジョークなどもまじえて楽しいで雰囲気でやります。
(2) 体験試合
 新人に体験試合をさせるディベートセクションも多くあります。ここでは、ディベートの細かな技術を身に付けるよりも、まずディベートの面白さを知ってもらうことが重要です。多くのディベートセクションでは、論題・フォーマットを簡単なものとし、新人が無理なくディベートを楽しめるようにしています。
千葉大学ESS
 千葉大ESSは前期すべてを使って新歓活動(1年生を呼ぶための活動)しており、1年生にすべてのSection(Discussion, Speech, Debate, Drama)を3週間ずつ体験してもらいます。このうちのDebateの3週間では、去年は"タバコを止めよう"というお題で架空のエビデンスを使ってDebateをしてもらいました。今年は"大学を廃止しよう"というお題でDebateをしてもらいます。

一橋大学(IS)
 ディベートセクションでは、2週間くらいで、ディベートの基礎を教えて実際に最終日に試合をしてもらっています。フォーマットは2コン2リバです。時間を短くしたり、エビデンスの量をケースで6,7枚にするなど、とっつきやすく工夫します。

東北大学ESS
 これ(Basic Debate)が1年生前期に行われるお試しの大会です。この大会では最近はずっと死刑をテーマ1AC8枚くらいの分量のDebateをしてもらってます。2コンスト2リバ形式でコンスト6分、リバ4分、QA3分でQAは日本語です。…このときは最初から、Debateの難しいことを教えずに、まず、Debateの簡単なこと、ADとDAを比べて勝敗をつけること、肯定側、否定側が交互にしゃべることだけ教えて試しにエビデンスなし、かつ日本語でDebateをしてもらってDebateの楽しさを知ってもらってます。

東京大学ESS
 ここ(UT-Sophia Exchange Debate)がUTの勧誘においては一番重要です。どういうイベントかといいますと、7月の上旬に上智の1年生と試合をする小さな大会です。全体活動として扱われていますので、多くの人が参加します。… マテ(資料)については、一年生向けに改造したモデルを使います。議論についてもすでに組み立てられたものを用意し、議論の流れを書いたフローのようなものも配ります。ただし、組換えなどについては自由に一年生にさせます。また、必ずとっつきやすいように日本語版も用意します。

獨協大学ESS
 8月の最終週に一週間の全体合宿(@野尻湖畔)があり、1年生はそこで4セクション全ての活動を一通り体験してセクションを決定します。この全体合宿は、一週間のSessionの後に行われるのですが、期間中はほとんどDebateのプレパの為に徹夜同然の日々です。Debセク員は死にます(ドラマやスピーチのMemorizeとかあるし…)。でも一生懸命教えればこの過酷さの後の面白さまで感じてくれる1年生はいます。Debセクに入る一年は多いです。 
一橋大学(IS)では、体験ディベートに参加した新人の良いところを見つけて誉めることにより、モーティベーションを引き出しています。このようなケアは特に効果的でしょう。
一橋大学(IS)
 来てくれた一年生は誉めます。プレパの時もいい突っ込みをしてくれた時など「才能がある。実際の試合でも通用する」と誉めます。最終日の試合は、セクション員がなるべく全員のスピーチを見るようにして、コメントシートを書きます。

(3) 実際の試合を見せる
 ディベート大会の試合は早口で行われるため、初心者には近寄りがたい印象を与えやすいという問題があります。そのせいか、勧誘段階で、実際の試合を見せるディベートセクションは少ないようです。実際の試合を見せているディベートセクションでは、「自分もあのように格好よく話せるようになりたい」と新人に思わせることで、早口の英語の試合を、勧誘にプラスに生かすようにしていることが興味を引きます。

 東京大学ESSでは、試合を解説する2年生をつけるとともに、「最初は聞いてもわからないものだよ」と伝えることにより、新人の不安感を払拭するという工夫をしています。新人に対する試合の見せ方を紹介します。
京都大学ESS
 まず勧誘ですが、とりあえず何も知らない1回生を大会に連れて行き、試合を見させました。こんな世界があるんだぞと知らしめるとともに、あの早い英語を全く理解できないから学んでみたいなと思わせる作戦です。

東京大学ESS
 JNDTなどの大会に希望者には見にきてもらいます。必ず試合について解説する2年生を一人は付けるようにしました。できるだけいい試合で、かつわかりやすいものを見てもらいます。最初は聞いてもわからないものだよ、ということを伝えておけば速いスピーチでもひかずに、すごいなあという感想を残してくれる人が多いようです。 また、できるだけ山の試合を見にきてもらうといいようです。自分の大学が残っているときは非常に盛り上がり、先輩の戦っている姿がかっこよくみえます。自分の大学が残っていないときは、英語のうまいトップディベーターの試合を見せてディベートのかっこよさをアピールします。自分もかっこよくあんなふうに英語をしゃべりたいと思ってディベートをはじめる人は多いようです。

東北大学ESS
 後期はみちのくDebateトーナメントがありますので、1年生にはできるだけこれを見に来てもらうようにしています。毎年、関東のトップディベーターをみて魅了されてしまう1年生が現れます。自分達としてもかっこいい先輩の姿も見せて1年生を魅了できるようがんばります。
(4) 良好な人間関係
 ディベートの魅力もさることながら、ディベートセクションで良好な人間関係があることが、新人勧誘の大きな鍵を握るようです。高崎経済大学ESS、東北大学ESSでは、先輩の親しみやすさの重要性を強調しています。この他にも、新人を飲みに連れていったりして歓待しているディベートセクションは多くあります。
高崎経済大学ESS
 何かしら組織の魅力はそこに居る人の魅力に比例するので、Debate以前に人間的に良いお付き合いをする。そして手取り足取り、1年生さまさま、何でもしてあげる。戦略的には「恩を売る」とでも言うべきか。一緒にご飯を食べにいく(もちろん奢る)、カラオケに行く、車があればドライブに行く、飲みに行く等など。一生懸命活動して、一生懸命遊ぶ。アフターケアは忘れない。

東北大学ESS
E.S.S.ではビラを配ったり、入学式で宣伝したりして勧誘し、最初のうちは新入生用の活動としてvalueのdiscussionをしたり、スクラブル(英語の単語を使ったゲーム)をしています。これらの活動はDebateとは直接関係ないんですが、私は後輩にこういう活動に積極的に参加するよう話しています。…ここでたくさん新入生に顔を覚えてもらい親しくなっておくと、後々Debateセクションに勧誘しやすくなるからです。ちょっとせこいようですが、ただでさえ、Debateは堅いイメージがあると思うので、先輩が親しみやすくないとなかなか試してみようと思いにくいので大事なことだと思います。
これに加えて、東北大学は、他大学とのディベートのときに、いろいろな大学の友達をつくることを勧め、ディベートを楽しみやすい環境づくりを心がけているようです。
東北大学ESS
(Basic Debateでは)Debateそのものを楽しんでもらうのはもちろん、このときはできるだけいろいろな大学の友だちをつくるように勧めています。この1年生にとって友だちができるって大事なことだと思います。いい友だちができるようなサークルには新入生も残りますし。Debateをする環境も大事ですが、大学生活を楽しめるような環境をつくるというのも重要な要素だと思います。大会後にコンパも開いて楽しんでもらうようにしています。
(5) 興味を持った人への個別勧誘
 いくつかの大学では、ディベートの体験試合等において、ディベートに興味を持った新人を見つけ、個別勧誘を行っているようです。
東京大学ESS
 このイベントを通じて、一年生には実際にディベートを経験してもらい、先輩のほうとしてはめぼしい1年生を見つけて重点的に勧誘していきます。
 ここでもExchangeと同じようにディベートを全活としてやってもらいます。Exchangeで目をつけた一年生についてはさりげなく勧誘を行います。この夏合宿でセクションを仮決定しますのでがんばります。ディベセクへ気持ちが傾きつつある人に関しては、KAEDEキャンプに誘います。KAEDEキャンプにきてしまえばかなりの割合でディベセク入ってくれるので、この勧誘についてもがんばります。

一橋大学(IS)
 体験期間が終わった後は、セクション決定日前の電話かけ(三日前に解禁される)です。お目当ての一年にはローテーションを組んで電話をします。
3. まとめ

 これらのサークルの新人勧誘を分析すると、体験試合の実施が、新人勧誘において重要な位置をしめるようです。ディベートの魅力を説明するためには、先輩がいろいろ説明するよりも、実際に体験してみることが一番ということでしょう。重要なのは、論題・フォーマットを簡単なものにして、初心者でも無理なく楽しめるようなものにすることです。また、エビデンスの範囲を制限したり、エビデンスを使わないディベートを実施することも多く行われています。体験試合は、新人勧誘手段として有効なだけではなく、初心者教育の先行投資としての意味もつことを考えると、勧誘手段としては有意義なものであると言えそうです。

 新人に実際の試合を見せることは、賛否両論ありそうです。早口の英語で議論を展開する先輩の姿を見て「私もやってみたい」と思う新人もいる一方で、「わからない。とてもできない」としり込みする新人もいるでしょう。そのせいか、新人勧誘の手段として、実際の試合を見せているサークルはあまり多くないようです。ただし、東京大学ESSのように、試合を解説する上級生をつけ、「最初は聞いてもわからないものだよ」と伝えて新人の不安感を払拭するのであれば、試合を見せるデメリットは相当解消されそうです。

 新人勧誘において、良好な人間関係の構築の重要性は言うまでもないでしょう。「ディベートは堅い」というイメージがあるだけに、親しみやすい雰囲気を作ることは一層重要かもしれません。東北大学ESSでは、先輩がディベート以外の活動にも参加することにより、新入生に顔を覚えてもらい、親しみやすくしているようです。

 ディベートに熱中するあまり、外からは「よくわからない、排他的な雰囲気」と誤解されないように注意することも必要でしょう。先輩が楽しそうに活動しているように見えるときは、新人も加入しやすくなると思います。サークルの雰囲気を明るく、オープンなものにするように務め、ときにはディベート以外の活動も行うなどして、新人と接すする機会を増やすことも重要になります。

(いいだひろたか)

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